うぐいす色の実

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【2】君がいて私がいた


 ユウトは私の隣に座った。
やっぱり、ユウトの方が背が高い。
「ユナなら絶対ここに来ると思って」

風が吹くと少し肌寒かった。

もうすぐ、冬が来るのだ。
一年で一番夜の長い日が。

「‥ユウト、本当に東京に行っちゃうの?」
「聞いたのか」

ユウトは驚いた表情を見せた。
「‥ミキとチセが‥、明日ユウトが東京に行っちゃうって‥‥それで‥」
「泣くなって。まだ、東京に行ったわけじゃないンだし」
顔をあげると、ユウトは今にも笑い出しそうな顔をしていた。

「オレも・・昨日聞いたんだ」
「・・そうなの?」
ユウトはうなずいた。
「ユナに話そうと思ってきたけど、もう知っていたんだな・・」
そういってユウトは少し悲しそうな表情になった。

 ――そっか、私のために来てくれたんだ・・・。
    ・・言いにくかったんだね。

私は涙を拭くと、ユウトの片手をギュッと握った。

「ありがとう、ユウト。・・きてくれてありがとう」
そう言って、ユウトに微笑んだ。

少しユウトの顔が赤くなったような気がした。
「べ、別に・・・。そ、それより、今日はどうする?」

空を見上げた。
闇夜の中に瞬く一番星を見た。

 『――・・座流星群は午後8時ごろがピークを迎えると予想されます。ピークは―――』

「流れ星見ようよ!今日は流星群が見れるってニュースが言ってたから!」
「流星群?マジで!?」
ユウトは笑った。
私も嬉しくて微笑み返した。
「本当だから!」


  ――きっと、大丈夫だ。
     たぶん、ユウトにはまた会える。


結構長い間、流星群が現れるのを待っていた。
夜までいられるのは今日が始めて・・。そして、ユウトと一緒にいられるのも今日で最後。

「寒くないか?」
隣に座っていたユウトが話しかけてくれた。
「大丈夫だよ。これくらい、平気」

とはいったものの・・やっぱり少し寒かった。


「無理すンなよ?あっ! 流れ星!」
「え?」

ユウトがそういったとき、透き通った夜空にたくさんの流れ星が降ってきた。
すぐに消えてしまうものもあったけど、長く尾を引いて落ちていく流れ星もあった。

「あっ、早く流れ星にお願いしないと・・!」

「大丈夫だろ?!こんなにいっぱいあるンだし」
ユウトは笑ってそういった。

「そっか、そうだよね」


ユウトは、聞くなよ?といったあと、呪文のように何かをぶつぶつと唱え始めた。

その姿が変な宗教をやってるようで、笑いをこらえながらユウトの姿を眺めた。
ところどころ、飛行機・・とか、おこづかい・・とか聞こえてきたけれど、
とりあえず自分の願いを言うことにした。

  ――・・・ユウトにまた会えますように。

「よしッ!全部いえた!ユナは何願ったんだ?」

「まぁまぁ、されは置いといて、・・途中まで帰ろ!」

「え?!ちょっ・・、待てよ!」

「待たないよ!」

スピードをあげて一気に高台を降りる。
冷たい風がほほをかすめていく。

「いや!お前がこけ・・・」
ユウトが言う前に私は思いっきりこけた。

どうやら、雑草で足がからまったらしい・・。
じわじわと痛みが伝わってきたけど、寒さがある上、感覚が少しにぶっていた。

空を見てみると、まだ流星群は降り続けていた。


   ――END――

 

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【1】 君がいて私がいた


 「ねぇねぇ、知ってる?五十嵐君、明日引越しちゃうんだって」
 
 授業中、私の後ろの席にいるミキとチセの声が耳に入った。
 同時に私の胸もドキッとする。

  チセ:「え!?引越しちゃうの!!?」

  ミキ:「親の都合で、東京だって言ってた」

  チセ:「とうきょう!!?でも、なんでミキが知ってンの??」

  ミキ:「昨日帰りに、五十嵐君のお母さんと先生が話してるとこ聞いたんだよ。
      それで――」


 ミキとチセの会話にそれっきり耳に入ってこなかった。
   ――ユウトが・・・?東京にいっちゃう・・・?


 五十嵐 悠人(イガラシ ユウト)は
 数年前、この町に引っ越してから私の友達だ。

 会ったばかりはクールでほとんどしゃべらなかったんだけど、
 私と話すようになってからはしだいに周りと話すようになったんだっけ。

   ――なんで、教えてくれなかったんだろう・・?


 ちらっとユウトの席を見た。
 いつも着てるはずなのに今日はその席に座っていない。

 いつもと同じ教室、同じ時間なのに、
 何かがなくなったようですごく寂しかった。

   ――・・あれ??
      なんで、こんなに寂しいの・・・?


 最近いつもそうだ・・。
 ユウトのことを想うと胸の辺りがぎゅっとなって心臓の音もはっきり聞こえる。

 今も多少ながら、ドキドキだ。

   ――・・一体どうしちゃったんだろう?


 放課後になり、
 私はカバンを持って教室から出ると通学路を歩き始めた。

 通学路の近くには桜の老木がある高台があり、
 夜になってそこから町を眺めるととてもきれいなところで一番好きな場所。

 放課後はいつもユウトとここに来て、夜景を見るのを楽しみにしていた。


   ――本当なら今日もユウトとここにくるつもりだったんだけど・・。
      今日は・・一人だね。

 桜の老木前までくると、オレンジ色に染まった空を見上げた。
 金色の太陽が少しまぶしい。

 もうこれから、ユウトと一緒に帰ることも、一緒に夜景を見ることも出来ない。


 そう思うと、涙が止まらなくなった。
 
 大好きな友達がいなくなるのは寂しいけど、ただ・・・それだけじゃない気がする。


   「お前そんなにこの場所が好きか?なンにもないのに」


 一瞬身体がビクッとなった。
 後ろを振り向くと、そこにはユウトがいた。



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*登場人物*

 ここでは、登場人物の紹介をしています。
 話が増えることで、紹介も次々と変化しますw
 
 



 『~*ノヴァ*~』

 *ティア・シルバート ・・・赤い髪の少女で、この話の主人公。
                 『ノヴァ』に所属しているが、経験は浅い。
                 記憶喪失になってるため、過去のことはわからない。

                【容姿】:人型   【種族】:不明
                【バディ】:??? 【武器】:片手半剣【ハンド・アンド・ハーフ】、
                                 小剣【スモール・ソード】


 *テル         ・・・深い森をイメージさせるような髪を持つ青年。
                半ヴァンパイアのため、本来のヴァンパイアの力は半分。
                逃げることが嫌い。

                【容姿】:人型   【種族】:半ヴァンパイア
                【バディ】:??? 【武器】:太刀


 *セシル       ・・・栗色の髪に黒い瞳を持つ少女で、テルと同じく、半ヴァンパイア。
                記憶のないティアを助けている。
                【1】では、人間がいるライヴホールで、熱唱している。
                それなりに、歌手としての人気も高い。

                【容姿】:人型   【種族】:半ヴァンパイア
                【バディ】:??? 【武器】:???


 *セルビア       ・・・世界樹の番をしているエルフ族の女性。
                 黄金色の髪にヒスイのような瞳をもち、その容姿はとても美しい。
                 
                【容姿】:人型   【種族】:エルフ(妖精)
                【バディ】:なし   【武器】:???


 *スプライト       ・・・妖精の一種。
                 住む場所により、容姿は異なる。
                 自然の姿(例えば、花や草、虫の姿など)をしているものが多い。
                 妖精の中では友好的だが、自然のものを荒らしたり傷つけると怒る。

                 【容姿】:自然(花、草、虫など) 【種族】:妖精
                 【バディ】:なし   【武器】:???


 *ローズ・マイン    ・・・『ノヴァ』の総本部―【ハイヴヘイム】の館長。トップリーダー。
                 セシル曰く、好きなことは『楽しいこと』『驚かせること』。
                 
                 【容姿】:人型/老人  【種族】:???
                 【バディ】:なし   【武器】:???


 *マフィン・ボルト    ・・・ローズ・マイン館長の秘書。
                 黄金色の長い髪を後ろで一つにまとめている男性。
                 たびたび仕事から逃げる館長に手を焼いている。

                 【容姿】:人型  【種族】:獣人/ライカン(オオカミ)族
                 【バディ】:なし   【武器】:???


 *ベル          ・・・【ハイヴヘイム】の食堂で働く料理人。
                 文中では語られていないが、
                 黒い猫耳に、ショートの黒髪の獣人の少女。
                 シルベットと共に仕事から抜け出しては、ティアたちと話す。
                 おしゃべりが大好き。

                 【容姿】:猫耳をもつ人型  【種族】:獣人
                 【バディ】:なし    【武器】:???


 *シルベット       ・・・【ハイヴヘイム】の食堂で働くウェイトレス。
                 文中では語られていないが、
                 緑色の髪に蒼い瞳を持つ、ドリアード。
                 ベルと共に仕事から抜け出しては、ティアたちと話す。
                 
                 【容姿】:人間    【種族】:妖精
                 【バディ】:なし    【武器】:???


 『~*聖騎士(パラディン)*~』

 *イリス・ヴィクトール  ・・・「Mission7# ミッドガンド―プリペットにて― 」【8】に登場。
                  No.114の番号を持つ、栗色の髪をした青年。
                  新しく入ってきた新人の騎士。
                 
                 【容姿】:人間      【種族】:人間
                 【バディ】:マット    【武器】:???


 *マット・フィンロー    ・・・「Mission7# ミッドガンド―プリペットにて― 」【8】に登場。
                  茶色の髪をした男。
                 新しく入ってきたイリスの世話役をしている。
                  

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【4】 Mission3# ハイヴヘイム―食堂にて―

 翌朝――。
<ハイヴヘイム内>

 「ティア、知ってる?今度世界樹の下で大きな舞踏会があるんだよ」
 「え?舞踏会って?」
 
 ティアはセシルの言葉に驚いて持っていたハニーティーをこぼしそうになった。今ティアはセシルと友達の料理人のベルと、ウェイトレスのシルベットと4人で食堂で朝食をとっているところだった。
シルベットは長い黒髪に紛れている猫耳をピクピクさせながらティアの話に耳を傾けた。

 「え?知らないの?」

その場にいたベルとシルベットはびっくりした。
舞踏会は人間以外の種族なら大人から子供まで、つまり誰でも知っているのだ。
亜種で知らない人はいないほど、このイベントは有名な行事なのだ。

 「ベルもシルベットも忘れちゃった?ティアにはここに来る以前の記憶はないの」
セシルはそう二人に説明した。

確かに・・私には記憶がない。
自分が誰でどこから来たのか、全くといっていいほど覚えてないのだ。
どこまで記憶がないのかというと、いつの間にか街に立っていて、宿屋のメアリーおばさんに助けてもらったという記憶まで‥。
ベルとシルベットは申し訳なく思って、それぞれティアに謝ると舞踏会について説明し始めた。


 「来週の満月の夜に『夜の月』が始まって、次の日の『昼の月』まで舞踏会をやるのよ」
とベル。
 「『夜の月』は主に陽の下に弱い亜種たちのために、『昼の月』は主に陽を必要としている亜種たちのためにね」
 「じゃ‥月って最後につくのは、月に関係しているから?」


ベルは頷いて答えた。
 「そうよ。月が出ている間が舞踏会の開会時間なの」
 「ティアも行ってみるといいよ。きっと楽しいから」


すると、厨房の方からベルを呼ぶ女の人の怒声が食堂中に響き渡った。
どうやら、ベルがサボったことに気づいたらしい。
ベルは慌てて厨房に戻っていき、シルベットはそんなベルをみてクスクスと笑った。

 「相変わらずね、ベルは・・・。あの様子なら私もそろそろ仕事に戻らないと。またね、ティア、セシル」
ティアとセシルはシルベットに手を振った。
 ――舞踏会か~‥ん?

 「そういえば、舞踏会ってどんなルールがあるの?」
ティアはカップを置きながらセシルに聞いてみた。

 「基本は男女一組かな~、男子から誘うの。ちなみに、『ノヴァ』は全員参加だからね♥」
 「えええええっ!!??」

ティアは思わず声を上げた。
「ね」の最後に、意味ありげなハートつき。
 ――すっごく嫌な予感がする・・

 「しょうがないよ、だってこれは館長命令なんだから」
セシルは妙にニコニコしていて、それに笑顔だ。
 「館長の!!?? なんでまた・・?」

ローズ館長はノヴァのトップでありながら、たびたび仕事から抜け出しては外へ外出しに行く。
ティアはそんなローズの側に仕えている秘書のマフィン・ボルトが、怒ってローズ館長を探しに行く姿をよく見ていた。

 「館長は『楽しいこと』ともう一つ、『驚かせる』のが好きなんだよ。しかも、このお祭り――『聖月祭』の仕切り役なの。それに、開催中はノヴァだけに特別な条件があって――」

会話中に時計が朝の鐘を打ち始める。
そして、辺りは一気に騒がしくなった。
時計が8回鐘を打ち終えたとき、セシルの声がより大きく聞こえた。

 「一日は自分の『バディ(相棒)』と。そして、もう一日は男子から誘いを受けるの♥」

そして、セシルの周りではたくさんのハートが一気に飛びまくり始めた。
今、セシルが何を考えているのか、ティアにはまる分かりだった。

 ――そういうことかぁ・・・。







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あらすじ

 <始まりの書>

この世界には大きく分けて、二つの種族が存在していた。

人間と亜種。
この二つが共に共存していたころ、二つの種族は同じ世界樹の下で暮らしていた。

しかし、対立を繰り返すようになってからは、人間は亜人の下から去っていき、二度と世界樹の元へ来ることはなかった。


長い年月が過ぎ――
亜人と亜種が大切にしてきた『世界樹』に突然自身の『魔法』が黄金色の光―『琥珀蟲』になって世界に散らばるという異変が起こり始める。


樹が弱まる一方で、
次々と世界にも異変が起こるようになっていく――。

樹の『魔法』だということを知らず、
人間たちは『琥珀蟲』を新しいエネルギーとして大量消費していった。


    ――――<  1ページ >――――




この物語の始まりは、人間と亜種が共に生きる世界――。

昔は世界を守る『世界樹』の元で仲良くしてきた二つの種族だが、
ある日のケンカをきっかけに対立を繰り返すようになった。

種族は二手に分かれてお互いの世界に足を踏み入れないようにする。



そして、月日は流れ。
亜種が大事にしてきた『世界樹』に異変が起こる。

『世界樹』自身の魔法が『琥珀蟲』となって散らばりだし、『世界樹』が弱っているというのだ。


一方、人間たちはそうとは知らず、新しい未知のエネルギーとして『琥珀蟲』を使い始めた。


亜種は人間たちから『琥珀蟲』を集めていくことで、戦争になりうる可能性があることをしりつつも、
『琥珀蟲』を集め続けた。

亜種は、『琥珀蟲』を集める『ノヴァ』を結成――。
そして、その数十年後には、反ノヴァ組織『聖騎士(パラディン』を人間は結成する――。

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【3】 Mission2# 始めの園―ラグルヘイム― その2

 「玉はさっき返したよ。セシルとは一緒じゃなかったの?」
計画ではテルは警備員を、セシルはファンの気をひきその間にティアは玉を見つけるというもので、
ティアが一人で逃げた後はテルとセシルで帰ってくる予定だった。

 「ライブ後アイツに会いに行ったけど、まだ楽屋から出られる状態じゃなくてさ。仕方がないから、様子を見てから帰るように言ったんだ」
 

そう言うと、テルはティアの隣にすわった。
 「とはいっても‥彼らのことだしきっとすぐ来るよ?」
 「聖騎士(パラディン)だろ?アイツは身軽だから大丈夫だって」


そう、テルもセシルもバンパイアだ。

聖騎士(パラディン)というのはバンパイアを狩るために設立された騎士団で、今では『サイコエネルギー』を盗っていく私たちを駆除するために動いている。
『サイコエネルギー』というのは、亜種側からで言うと『琥珀蟲』のこと。 要するに、『サイコエネルギー』というのは人間たちが勝手につけた名前だ。


 「‥強いんでしょ?」
ティアはそう言って口をつぐんだ。会ったことあるの?と聞こうとしたが、それはあまりにも無情すぎた。バンパイア族は逃げることが嫌いだからだ。
 
「‥だから逃げるのさ。力が不十分なうちは」
テルはそれ以上何も言わなかった。

戦い好きで負けず嫌いが多いバンパイア族は敵の前で逃げることを絶対にしない。
いくら戦って無駄死にだとわかるまでは・・。

 「――ローズ館長には報告したのか?」
ティアははっとして、テルの顔を見る。

すっかり忘れてた!

あわてるそんなティアを見て、テルは今にも笑いそうな顔をした。

 「・・だと思った。冗談さ、聞いてみただけ。そのかわり、もう忘れんなよ?」
ローズ・マイン館長は、世界樹に魔法を戻す亜種の組織――『ノヴァ』の総本部の館長。そして、その総本部は通称『ハイヴヘイム』――館の園と呼ばれている。
 

 館長というのは、そのハイヴヘイムのトップリーダー――つまり、館の園のトップリーダーという意味合いで『館長』とみんなに親しみ呼ばれているのだ。

 「止めてよ、こんなところで冗談なんて」
ティアがたしなめても、テルは一向に反省する態度を表さなかった。
そうこうしているうち、セシルが世界樹の前に現れた。

空はもうすっかり暗くなり、いくつもの星が光り瞬いていた。



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更新遅れてます(汗

いろいろありまして。。
更新が遅れています(^^;;;)

只今期末考査中...(・∀・;)


――って、テスト大丈夫なのか??

いえいえww
決して大丈夫ではございませんwwww


最近また悩みが増えてきた・・(´・ω・`)
問題は大学選び☆

決まっていたのに、叔母の一言でまた行き先不安定に。。(汗

さて、これからどうなるのか。。


美大へ進むか☆指定校にするか・・・


これこそ究極の選択ww(´∀`)ww (←笑ってごまかすw)



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【1】 Mission1# プロローグ

ポチャン・・。
水が滴り落ちる音が狭い水路の中でよく響く。

ポチャン・・・ポチャン・・・・。

突然、どこからか歓声がドッと沸き、それは水路によく響いた。


 『いい?忘れないでよ?始まったら、計画通りにね』
栗色の髪に黒い瞳をした彼女が私にそう話す。
 ――確か、そういって別々に分かれたんだっけ。

そっと目を開けてみる。
底にある電灯で水路はキラキラと光り輝いている中、水面に一人。
赤い髪の少女が浮かんでいた。

どこかで銃を発砲する音が遠くから聞こえた。
普通なら、ここでパニックが起こるはず――。

でも、そうならない理由がある。


 「――・・さて、そろそろいきますか」
赤い髪に滴る水を落として、少女は水路の一本道をまっすぐかけていった。



外では有名なミュージシャンのライブが行われていた。
何万人ものファンがミュージシャンの登場で熱狂する。

ドーム型のライブ会場のど真ん中に円形形のステージ。
ステージと客席には空間があり、その周りには観客席がずらりとそろってどこも満席だ。

照明が暗くなり、スポットライトがドームの中央に照らされると、自(おの)ずと歓声が沸きあがった。



 「ライブ、見たかったなァ~」
赤い髪の少女が走っていると、目の前から息の荒い犬が5匹ほど走ってきた。
 「――見つかっちゃったか・・」
少女は腰にあった片手半剣【ハンド・アンド・ハーフ】を取り出すと、一気にせめていく。

水路の壁を蹴ったりながら5匹は次々と、こちらへ向かってくる。
それに普通の犬より相当速い。

それはそうだろう。
この犬たちは誰かにバンパイアの血をなめさせられたのに間違いなかった。
少しでもなめれば、誰でも強靭的な強さとスピードを手にすることができるからだ。
ただし、精神が弱ければ、すぐにでも気が狂ってしまう。
この犬たちは、そのバンパイアの血に副作用を起こして気が狂ってしまったのだ。

 「すぐ終わらせるからね」
少女は腰にあったもう一つの小剣【スモール・ソード】を左手で取り出すと、すべて犬に斬りつけた。
間一髪のところで噛み付かれそうになったが、こちらの小剣の方が速かったようだ。

斬られた犬たちは金色の光になって天井高く上っていくと、
まるで命が消えていく様子を表しているかのように、あちらこちらへ分散して消えていった。


 「あっちだ!急げ!!」
男性の声が水路に響きたくさんの足音がこちらへ迫ってきた。
追っては数十人らしい。
  ――扉・・!
少女は前方にある南京錠が掛けられた白い扉を見ると、一目散に駆け出した。
  ――ちょっと、遅かったかな・・?
 「いたぞ!構え――」
ずいぶん後ろの方で、クロスボウの引き金を引く音が男の声と同時に鳴り響いた。

  『――壁よ。なんじ我を妨げず、我の力となれ


 「打て!!」
 少女が古の言葉を唱えた時、男の声でいっせいに宙を裂く矢が少女に向かってのびてきた。
少女は身を翻し後ろ向きのままで大きく跳躍すると、前方に向かって飛んでくる矢を片手半剣でたたき落とした。
クロスボウがもう一度矢を放つ前に、壁は古の言葉通り反対側へ穴を開け、その中へ少女は飛び込んだ。

 「逃げられるぞ!!」
 誰かが穴へと入ろうとしたが、そうなる前に壁の穴は元通りに戻っていく。
勢いよく壁に向かって走っていた男は止まる前に壁に激突し、そのまま伸びてしまった。
 「――ったく!どいつもこいつも・・。すぐに二番隊へ連絡しろ!こいつは、タンカーで連れ出せ。」
 「隊長、ここは・・どういう扉なんです?」
隊長と呼ばれた男が他の隊員に命じていると、別の男が隊長にそう尋ねてきた。
 「この部屋は――」


少女は部屋に入ってすぐ、扉にあらゆる鍵をかけた。
  ――これで少しは時間が稼げる。あとは・・。

少女が見上げた先には巨大な水の柱が天井に向かって上っていた。
その水の柱にそって螺旋階段が伸び、柱の近くまで近寄ることができるようになっている。         
すぐに、少女は螺旋階段へ上り水の柱へと近寄っていった。

  『大地を潤す水よ。我を通し我の助けとなれ


少女が柱の中へ飛び込むと、少女の周りだけ水のアーチが現れた。

柱内には一つ、水を帯びた金色の玉(ぎょく)が柱の水に影響を受けずに浮かんでいる。
少女が探していたのはまさしくこの玉だった。

 「よかった‥」
ホッとして少女は金色の玉を取る。

どうやら、同じものを狙う彼らよりも先にここへたどり着けたらしい。


腰につけてあるポーチに玉を入れると、少女のミッションはこれで終わった。
ちょうどライブも終わった頃らしく、突然黄色い歓声が天井に飛び交う。
 「セシルも終わったとこなんだ」
天井を見上げて赤い髪の少女は微笑んだ。

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【2】 Mission2# 始めの園―ラグルヘイム―

 「えっと~・・私が・・・一番!?」

目の前には大きな老木。そして、広々と大地に広がるいろんな種類の花畑。
ここはミッションで玉を持って帰ってきた亜人たちが必ずといっていいほど立ち寄る場所――ラグルヘイム。

少女の前には大きな老木があり、その周りの花畑では妖精のスプライトたちが花の世話をしていた。
任務が終わったらひとまず、世界樹に集合という約束だったが、まだ誰も帰ってきていないらしい。
 ――とりあえず、『玉』を戻さないと・・。

大きな老木の前には番人である女性のエルフ――セルビアがこちらを見ていた。
赤い髪の少女――ティアは、あわてて軽くひざを曲げカーテシーをすると、ポーチに入れた玉(ぎょく)を取り出してセルビアに手渡した。

 『ミッションは終了です、ティア・シルバート。あとは私にまかせて下がりなさい』
 『はい。ありがとうございます』


セルビアが玉を受け取りティアの知らない古の言葉を唱えると、玉は黄金色の『琥珀蟲』に変わって世界樹の元に戻っていった。
光が戻るたび、世界樹自身が光を帯びるようになり、葉の一枚一枚が淡い光に包まれた。

 「あともう少しなのに・・・。人間が『魔法』を使いすぎているせいね」
風が吹き、世界中の葉がサワサワとなびく。
そんな世界樹を見ながらセルビアはそういい残して世界樹前から姿を消していった。

確かに、それはセルビアの言うとおりだった。
人間たちは無駄に『魔法』を使いすぎている。
あの玉(ぎょく)にしても、元は集められた「琥珀蟲」で魔法の塊でもあった。
何らかの形で『琥珀蟲』が玉となって凝縮し、それを人間がエネルギーとして使っていたのだ。

人間は嫌いだけど、いなくなれば、それはそれで困ることが出てくる。
特に人間の血を糧とするバンパイヤたちにとってはひとたまりも無いだろう。


ティアは花畑のすぐ近くのベンチへ腰をおろした。
向日葵、スイトピーや虫などの姿をしたスプライトたちがティアの前に集まってくる。
スプライトは妖精の中でも友好的で、彼らが大好きな植物を荒らさない限り怒ることはない。

 「ティア、お疲れ様」「おかえりー」
 「ありがとう、ただいま。それよりも、早くしないと陽がもうすぐで沈んじゃうよ?」

ティアがたずねると、スプライトたちは「どもー」といっていっせいにそれぞれの花へ帰っていく。
そのスプライトたちの中でも、すぐベンチのその側に花があるスプライトだけはまだ居残っていた。   
 「ティアは誰かと待ち合わせ?」
 「うん。セシルとそれから、テルの二人」
 「じゃ、もうすぐ来るよ。また話し聞かせてね」
そういってスプライトは欠伸をしながら、花の中へもぐりこんだ。
 「おやすみ」
ティアがそういったとたん、夕日と共に花は次々と閉じていった。


 「ティア!?そこにいるってことは成功したのか」

突然の声に驚いて振り向いてみると、
そこには深い森を思わせるような髪をもった青年が、太刀をかついでこちらへ歩いてきた。
 

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