うぐいす色の実

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#62 武勇伝書 5/5



"…青し選ばれし者よ。そなたは誰ゆえに捧げる?
何を得ようとも、オルゴンはそなたを見捨てはしまい。
ソレイユこそそなたを見捨てた者、その印を付けた偽善者。我、そなたに印を解放しようぞ"


その一節を読み終えると、次のページを開いたが何も書いておらず白紙のページが続いていた。


「エンゼル…何て書いてあった?」
本の状態からヒイラギは、エンゼルの様子が気になった。

「"蓮の花を司る者。そなたは何を求める?ソレイユはそなたに何も与えなかったというのに。
偉大な力、これを授け好きに使うがよい"とあって白紙のページが続いています」
エンゼルにも本にあった内容を伝え、ヒイラギは思い悩んだ。


「…どういうことだ?」

「ソレイユの印はオルゴンと関係してるようだな」
ユラは腕を組んでエンゼルとヒイラギの持つ本の表紙を見ていた。タイトルのない本。
しかし、表紙にある模様だけは違っていた。

「エンゼル、印の模様は?」

「え?どうしてですか?」
「表紙をみてみろ」


言われるまま、エンゼルは本の表紙を見る。
そして或ることに気づき声を上げた。
「印と同じです!僕のは蓮の花なんです。あれ?花びらが少し開いてる」

ロワンと同じであることも話すと、フォーンは自分の印もヒイラギを同じことを嬉しく思い
ヒイラギの印をみて喜んだ。


「ヒイラギのは私と一緒だね。青いなんて知らなかった。羽根の模様なんだね?」

同じ印がそろう。これには何かあるとヒイラギは思い、他にヒワリやユラの本もないのかと
自分の持っている本を見てはユラやフォーン、エンゼルに聞く。
「他の本の内容は?本はあと何冊ある?」


まだ探そうとするヒイラギにユラは止めに入った。

「ヒイラギ、恐らくこれ以上さがしても、印の手掛かりは掴めない。
本が全て語ってるわけではないんだ」

「けど…」
そういわれ納得のいかないヒイラギはユラに反対しようとしたが、再びユラに
止められる。

「ヒイラギ、ここにあるのはソレイユを称えた伝記に過ぎない。
ソレイユの印がどうして現れるのか、知っているとすれば吸血鬼だろ?」


ヒイラギはユラの言葉で気付いた。
そう言えば、伝記にはオルゴンについて書かれてないのだ。

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#61 武勇伝書 4/5



『――……コルシェ・センター・フィールド、第一次予選をお送りしています。ルールはフィールド
内に潜む魔物を先に五体倒した挑戦者が先に進めます!現在予選通過者はヒワリとロワン、初出場の
リズ、トール、ムーベン。
あっ、ここで初出場のロムリが通過になりました。
第二次予選に通過できるのはあと三名だけとなります!』


昔、1000年戦争があって人間のソレイユが吸血鬼のオルゴンを倒して、これまでに続いていた戦争を
終わらし平和を取り戻したという――。それ以降、吸血鬼との戦争はなくなった――。
そんな伝説のおとぎ話は、小さいときから聞かされて育ってきたものだ。

今の暮らしは「ソレイユの賜物」だと、大人たちは決まってそういうのだ。
だから、この国で「1000年戦争」や「ソレイユ」を知らない者はいない。

しかし、このおとぎ話が実話かどうかも本当は怪しいものだ。



「どう?見つかった?」

フォーンが顔をあげてみんなに聞く。やたらと、本の羽ばたく音しか聞こえないのはサイレントの魔法が
かかっているからだろう。

そのせいでフォーンの声はよく聞こえた。



「1000年戦争の伝説なら…まだ全部読めてませんけど。ソレイユの印は書いてなくて、
ソレイユのことしかないです」

エンゼルは本の挿し絵をフォーンに見せながらそう言った。
挿し絵は右側に若い男性が立ち剣は黒い翼のある男性の胸を貫いていた。


「この絵、右がソレイユだったっけ。人間と吸血鬼の戦いの…」

「ソレイユが人間でオルゴンが吸血鬼です。…あれ?この人…腕に模様があります。
刺青でしょうか?」
エンゼルの問いかけにフォーンはエンゼルが指差す翼の生えた男性の腕をよく見た。
確かに刺青のような模様が描かれているが…ソレイユの印かどうかは怪しかった。


「説明には何て?」

「それがソレイユが吸血鬼を倒したことしか書いてないんです。
"こうして、ソレイユの不意打ちに吸血鬼たちは隅へ隅へと追いやられていった。
ソレイユはアキアミヤ兵士を率い、そして先導しながら彼らの本拠地にたどり着いた"
この後もずっと、いかにソレイユが吸血鬼を倒していったのかということしかありません」

「もしかして武勇伝書?なんだ…期待して損しちゃった」


フォーンとエンゼルの会話を聴きながらヒイラギは手の中にある本を読んでいた。
これもリードを使わなければ読めなかったが、この本もエンゼルと同じく武勇伝書のようだ。

「エンゼル、これも武勇伝書みたいだがこの本と内容が同じか替えてくれないか?
途中でもかまわない」
「大丈夫です。どうぞ」


そう言ってエンゼルの読みかけた本を受け取った瞬間ヒイラギの左腰辺りが青く光り、
エンゼルの左胸も紫色に光った。
訳がわからないうちに、光はヒイラギとエンゼルと同じ光を本も放ちすぐに淡い色の光となって
消えていく。


「今のなんですか…?」

「わからない…」

慌てて本の内容を確認した。
変わらなければ、エンゼルが言うに武勇伝書のはずだ。ヒイラギは最初のページを開けた。



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#60 武勇伝書 3/5

「これも術か」
ヒイラギの様子を見てユラがそう言うと、ヒイラギは本を4冊ユラに手渡す。
そしてフォーンやエンゼルにも手渡すと近くのテーブルに本を置いた。


「一人4冊ずつな。何か見つかれば報告」
「えっ?でも、この文字の配列…初めてみます。読めないですよ?」

エンゼルが手に取った本はかなり小ぶりな本。
フォーンがみると、確かに文字は読めない。
文字列に規則制はなく、はっきり言うとまるでばらばらの紙を貼り合わせたようだ。


「リードを使ってもたぶん魔法は使えないし…どうしよ…」

そうフォーンが言っている側からエンゼルはリードを使った。
すると文字の配列が変わり不規則な文字がちゃんと規則正しい配列に変わり
文字が読めるようになった。

「フォーンさん、これアナグラムでした。これで読めますよ」


「えっ…?」

「??…どうしました?」
驚くフォーンにエンゼルは戸惑う。

「何を使ったの?」

「リードです。さっきフォーンさん言っていましたよね?」

フォーンは慌てた。エンゼルの持つ本をもう一度見てみたが本にかけてある術は解けていなかった。
しかしリードを使うには術が解けないと使うことはできない。

「…術が解けないままリードが使えたってこと?」
「術ってなんのことですか?」


「盗まれないように術がかかってる。まず、この図書館では使えない。あっちこっちにいろんな
術があるから魔法を使えば見つかる」
エンゼルの様子に察してか、そうエンゼルに説明したのはユラだった。


「そうだったんですか…」
「魔法使えるならエンゼルにもわかるよ。ただ、見分けるには術をかけた人の力より多くの力を
持つ者でないと見破れないから。取りあえず、エンゼルはそのまま読んで」


エンゼル自身、自分の魔法の知識の無さに落胆した。
ユラが魔法を使った所を見たことはないが、少なくてもヒイラギやフォーンは知っていたのだろう。
いろいろヒワリが教えてくれたが、それでもまだまだ覚えることはたくさんあるのだ。

エンゼルはもう一度、手に取っている本を眺めた。
確かに本の周りには透明な何かがかけられていることはわかるが、それがなんなのかはわからなかった。


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#59 武勇伝書 2/5


「ヒイラギ」

声をかけたのはユラだった。

「え?」
「大丈夫か?」

ユラに見透かされたような気がして慌てて、大丈夫だとユラに伝えた。



図書館に着くとさっそく中へ入った。
すぐ正面にはドーム状で天井の高い空間が現れ、図書館の中心とみられるカウンターがある。
返却された本はカートに乗せ係りの人が運んで行く。


「こんなたくさんの本見たことないです!」

「ありすぎて二階まで探すの大変そう…」

フォーンの言うとおりだった。二階は図書館の内側の壁に沿って長い通路が出来ている。
壁沿いには一階と同じく本棚が並び、身長の倍の高さがあるこの本棚にはハシゴがかけてあった。
また本棚と本棚を挟んだ入り口のようなところから一階と二階を行き来するようだ。


「二階の廊下は柵もあるし、流石に一階まで落ちることはないな」

ヒイラギの説明になんで?と問い掛けるフォーン。
そんなフォーンにユラが答える。


「術がかけられてる。だから落ちても怪我はしない」
「なるほど…」

「問題はどうやって探すかですね…」

ヒイラギはカウンターへ行き受け付けの女性に話しかけ、検索について聞いた。
しばらくすると、一冊の本をヒイラギに手渡してフォーンたちの元へ戻ってきた。



「この本は?」
フォーンがつかさず聞き、ヒイラギは本を開けながら説明し始めた。

「この図書館中の本のリストだ。目次を開いたら関連するキーワードで探す。
今回はソレイユの印だな」


ヒイラギはページをめくり調べ始める。

ソレイユの印の項目があると、その項目をなぞった。
すると、あらゆる場所から本が蝶のように羽ばたきながらヒイラギの前に積み重なった。

本はパッと見で15冊ほどだ。大型もあれば、比較的小さな本もある。

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#58 武勇伝書 1/5


『さぁ今年もこの日がやってきました!コルシェ・センター・フィールド大会、本日から開催します!
今年もたくさんの方が参戦して頂きました。初出場の方から参戦常連の方まで幅広いです!…――』

翌朝。
朝早くヒワリとロワンが会場へ出て行ったあと、大会の開始時刻になるとコルシェ中に
女性司会者の声が放送で流れ、歓声も聞こえてきた。

それはちょうど、エンゼルたちがシワーズを出た瞬間の出来事だった。
コルシェ上空にはすでに大型スクリーンを乗せた飛行船が三台飛び、円を描いてゆっくり回っている。


「すっごいね!」

フォーンは思わず歓声をあげた。
「大会って言ってもかなり本格ですね!初めてみました!」

「コルシェの街一同になって開いてる感じだね!あーあ‥、これならちゃんと見たかったな…。
ヒワリとロワンの活躍見れないよぉ」

「印の記述探しが先だろ?」


しょげるフォーンにヒイラギが諭すようにそう言った。



「だって!だってだよ!?活躍してるとこ見たくないっ!?」
「僕は見てみたいです」

「俺は見たくない。わざわざ怪我しに行ってるようなもんだろ?」

エンゼルのあと、ヒイラギの弁解にフォーンはううぅと唸る。

「うう~ぅ…そうじゃなくてさっ!ぅんもいいよ!ヒイラギには聞かないよっ!ユラはどう思う?
見たい見たい??」
フォーンは期待してユラに聞いた。

「確かに面白そうだが、見てる暇はない。ヒワリたちが時間を稼いでくれてることが無駄になる」
「……そうだよね」

フォーンは残念そうにそうつぶやいた。
そういえばとエンゼルはフォーンにフォローする。


「フォーンさん、決勝戦は明日ですから明日には見に行きましょう!」

「エンゼル、良いこというね。じゃ、明日二人を応援しに行こっか?二人ともそれでいい?」


――まだ、二人が決勝戦出るって決まったわけじゃないのにな

そんな思いを抱きつつも、ヒイラギはそれならと了承した。
フォーンとエンゼルはやった!て喜ぶがそんな二人をヒイラギは落ち着かせる。

「先に図書館だ。記述を見つけないと」



4人が図書館へ目指す間、司会者の言葉からはヒワリとロワンの名が飛び交った。

『――……そして、決勝常連といえばヒワリとロワン!この二人が二年ぶりに帰ってきましたよ!
まだ試合は始まっていないのに会場では歓声が上がっています!それにしてもすごい人気ぶりですね!
今年も決勝の候補として名が上げられます!』


ヒイラギは司会者の声を聞きながら、落ち着かずソワソワする自分に気づかずにいた。

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#57 パン屋「リュサ」 6/6


ちょうど二人の話はヒワリの耳には届いていなかった。
が、近くにいていたロワンはそれを聞いて神妙になる。

「あいつ、ヴェンを倒したもんな」

 「そんなに強いのか?ヴェンは?」

ヒイラギがロワンに質問すると、ロワンは頷いた。


ヒワリがコルシェに着たばかりの時、ヴェンはかつてロワンと互角に戦っていた。
ヒワリがヴェンと一戦を交えていないがロワンが何度も負傷しているのは何度も目にしていた。

そんなロワンが怪我をしてでも欲しかったのは生活費だ。


ロワンとヒイラギの会話に気づきヒワリは心配そうにロワンを見る。

「ロワン、無茶しないでね」


「わかってる。ま、お前は血を流さないことだ」

何か物々しい雰囲気が二人を包み込む。
その雰囲気にエンゼルは過去の大会で二人に何かあったことを悟った。



「さてと…図書館だが、閉館まであと一時間しかない。ここからだと5分だがどうする?
ちなみに、街の中でワープはするな。壁との間にめり込むぞ」


そういうロワンにエンゼルは持っているパン屋の袋を必死に抱え込んだ。


「まず、このパンをどうにかしたいんですが」


「普通図書館といったら飲食物は禁止だから、戻った方がいいかもね」

エンゼルの持つパンの袋をフォーンは持つと、エンゼルはありがとうございますとフォーンにお礼を言った。


「確かにこれ重い…。おばさん、一体いくつ入れたんだろ?」
「まぁ最悪、残れば保存食だな」

そう言ってロワンは笑った。

「図書館まではこの道を真っ直ぐいけばいいよ。ヒイラギもついてるし、大丈夫だね」


ヒワリはそういい、シワーズを目指した。あと、気になるのはリズのことだった。
予選に出るなら、明日対決することになるかもしれないからだ。

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#56 パン屋「リュサ」 5/6


「え?でもさっきまでここに…居てたよね?」

フォーンはエンゼルに話しかけ、エンゼルは頷いた。
確かに、この場にさっきまでリズがいたことは誰もが目にしていたのだ。


「ま、用事はあとでいいか。それはそうと、店早く閉めないとな。
俺はまだ釜を見ないといけないからよ」

じゃぁなとヒイラギに声をかけた後は、急いで厨房の方へ戻っていった。
そんなリュサを見てコリーは一息つくと、ヒワリたちに向き直った。

「まぁ気にしないで。リズのことだからそのうち帰ってくるでしょう。
あ、そうそう、もう店閉めるから今日はごめんなさいね」

「おばさん、リズは明日の予選に出るのか?」


確信を持ってコリーにヒイラギが聞くとコリーはそうよと店の窓をしめはじめた。

「初めは止めるように言ったんだけど聞かなくて。
ヴェンがね、たまたまここにいて剣なら教えるって言ったのよ。
そしてこの子は筋がいいから大会に出られるって。確かに剣が扱えるなら狩人にもなることもできるけど…――」


しばらく考え込んだコリーの側からヒワリは思い詰めたように口を開いた。

「…コリーさんの勘は間違ってません。大会と狩人は違うって…私自身が実感しましたから」

「…そうね。さぁ、もう閉めなくちゃ。またゆっくり話にきてね」


ドアを開きみんなカルネ通りに出るとコリーが手を振り、外側のドアノブに書けてある看板を
裏へ向けドアを閉める。
見渡せば、バルサ通りの店は次々と店を閉め始めていた。
みな明日の大会に備えて店を早く閉めるようだった。


「やっぱ都合悪いことになったな」

ヒイラギはユラにそう話した。

「どういうことだ?」


「リズに目をつけられた、特にヒワリな。大会では二人とも気をつけた方がいいかもしれない」

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#55 パン屋「リュサ」 4/6


「貴方たちは誰!?どうしてヒイラギと一緒にいるの!?」

和やかな雰囲気を壊すようにリズはそう聞いてきた。
なんてことをいうの!とコリーはリズを止めたがリズは聞こうとしなかった。


「すみません、名前も名乗らずに。私はヒワリと言います。
ロワン、エンゼル、フォーン、ユラは旅の仲間です。
ヒイラギはカルネの町に寄った時に私が旅に誘いました」

ヒワリとロワンの名前が出た時、さすがにリズも驚いたようだ。
コリーも驚いていたがリズの代わりに話を続けた。



「ごめんなさいね、ずっとこの街にいるのに私ったら気付かなくて。
この街に戻るのは久しぶりでしょう?私はコリーで娘のリズよ」

「貴方がヒワリ?…わかった、大会ではご武運を」


そう冷たく言い放つと踵を返して店の奥へ入っていった。


コリーは冷たいリズの態度にため息をつく。
「全くあの子は…。気にしなくていいわよ。それにしてもどうして旅なんか…、
それでヒイラギがいいっていうのも珍しいけど」

「おばさん、旅は俺が決めたんだ。確かに誘われたが、ヒワリは関係ない」

「ヒイラギがそういうなら・・。まぁ故郷を離れるのも経験のうちよね」


ヒイラギがそう話していると、奥から白髭を生やし白いエプロンが特徴的な男性が出てきた。



「おい、コリー。リズ、見なかったか?おお!シワスのガキじゃないか!
それに…見たことある顔だな」

目を細めて見る男性に、この人ったら!とコリーは注意した。


「何言ってんのっ。ヒワリとロワン、この街で二人の名前聞くの久しぶりよね。
この人は私の亭主のリュサ」

コリーに言われ、男性――リュサは細めていた目を見開かせた。


「えっ!あの有名な狩人さんか!?こりゃーたまげたな!」

「ヒイラギがお世話になるそうよ。それであんた、リズがどうしたって?」


そうそう、とリュサは話し始めた。

「リズがいない、またどっかへ行ってるのか?」


そういうリュサの言葉にみんなの頭の上には疑問符がついた。

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#54 パン屋「リュサ」 3/6


「ロワン、ヒワリも大会に参加するんだろ?リズは教え子だが、なかなかの強敵になるぞ」

「…だろうな、さっき見た。お前を倒したくらいだからな」


 「今は現役ほどじゃねぇよ、体力も落ちてるしな。若いもんにはかなわねぇ」
ヴェンは苦笑する。



「ロワン、ヴェンさんとはどんな繋がりなんですか?」

気になってエンゼルはロワンに聞いた。


「昔のライバルだ。まぁ、その頃はお互いケンカ沙汰だったからな」

「ケンカ…ですか」


ヴェンは剣を軽く手入れし鞘にしまう。その間昔のことをふと思い返していた。

「今思うとしょうもないことだったがな。それはそうと、ほら、早く行った方がいい。
コリーさんによろしくな」



【カルサ通り:パン屋リュサ】

「お母さん、あの人たちは誰なの!?どうして・・――」


パン屋リュサへ戻ると、ドアを開けた時にそんなリズの声が聞こえてきた。
ドアベルの音でリズもお母さんと呼ばれた女性――コリーは振り返った。



「お帰りなさい、お使いありがとうね。余り物だけどお礼ね」
そう言ってパンの袋をエンゼルに渡した。


「ありがとうございます」

「クッキーも入ってるからおやつに食べてね」


――全くもう!!お母さんはっ!
  どこの人なのかもわからないのにどうして何も聞かないの!?
  どうしてヒイラギが一緒にいるのよ!?

和やかな雰囲気に耐え切れず、リズはヒワリをみてヒワリの前に進み出た。

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#53 パン屋「リュサ」 2/6



「リズ!」

ヒイラギが呼んでも止めようとしなかったが、もう一度声かけをしようとした時には
リズは男性に勝っていた。

男性の剣はリズの手中にあり刃先は男性に向いている。


「降参だ。参ったな」

リズは男性に剣を返し、先生手解きありがとうございましたと礼の言葉を伝えた。


「リズ!」

やっとヒイラギの声に気付いたのか、リズは振り返ってヒイラギとその一行を見た。
「ヒイラギ?久しぶりね!…その人達は?――」


「やぁ、ロワン!元気だったか!」

ヒイラギが答えようとした矢先、リズに先生と呼ばれたその男性はロワンに握手を求め肩を叩いた。


「ヴェン、元気そうだな」

先生知り合いなんですか、とリズが聞くと先生――ヴェンはそうだと答えた。
「狩人だった時のな。それにしても噂は聞いたぞ。大会に出るんだってな。
コルシェに復帰したのか?」

「いいや、通りすがっただけだ。ま、稼いでも生活費に消えるが」


二人の間では笑いが耐えなかった。
ヴェンもかつての自分と照らし合わせたのかもしれない。
本当にそうだよな、とロワンにそう話す。

ロワンとヴェンが話している間、リズはヒイラギがなぜここにいるのか不思議がった。


「ヒイラギ、なんでコルシェに?」

「通りすがりで寄ったんだ。さっきおばさんにあったから、
リズを呼びにきただけだ」


ヒイラギの言葉を聞いてヴェンはリズに話しかけた。

「それなら、今日はここまでにして早くコリーさんの所へ帰った方がいい。
明日は健闘を祈るよ」

「わかりました。今日はありがとうございました」


リズはヴェンに礼をもう一度いい、ヒイラギとロワン以外のメンバーの顔を見て怪しみながらも
一人急いで店に帰って行った。


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#52 パン屋「リュサ」 1/6


ドアを引きドアベルを聞きながら店内へ入ると、焼きたてのパンの香りが店内中を包み込んだ。
カウンターの後ろの棚にはブルマンブレッド、ラウンドトップが並び、
入り口付近の丸テーブルにはバターブリオッシュロールが
積み重なったカゴが置かれている。

入り口からの左右に分かれた壁沿いの棚にも、パンが揃えられてあった。



「いらっしゃい。…あれ、ヒイラギじゃないの。シワスさんは元気にしてる?」

カウンターより奥から出てきたやや半ばの女性は長い茶色の髪を後ろへまとめ上げ、
すっきりとした雰囲気があり印象の良いハキハキとした声をしている。


「今日はバゲット売り切れちゃってね。シワスさんバゲット好きなんだけど、
今回は食パンで許してちょうだい」

「いえ、今日は挨拶にきただけで」



「そうなの?あ、もしヒマならあの子呼んできてくれない?
大会に出るって張り切っちゃってね。
リズはバルサ広場で練習していると思うの。店の手伝いもして欲しいものだわ」

ヒイラギがすべてを言い終わらないうちに女性はまた店の奥へ入り込んでしまった。
ヒイラギはため息をついた。



「どうします?あの人また店の奥へ行きましたが」

エンゼルがヒイラギに聞くと、腕組みをして考えた。


「リズを探そう。リズは多分この近くだろ」




【カルサ通り:バルサ広場】

ヒイラギは店を出てカルサ通りの路地裏を進んで行った。
狭い路地にはたまにネコが通るくらいで人の姿は見当たらない。

そのうち、アーチ状の柱が幾重にもなっている通りへとさしかかった。



「人見かけないね」

フォーンがそう言った時にはアーチ状の柱の間から、奥の方が陽に当たり明るい場所が伺えた。
その静けさの割に刃を交じれた時のような甲高い音がこだまする。

明るい場所へ出ると、そこでは一人の女性が剣を持ち男性相手に練習をしている最中だった。


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