うぐいす色の実

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#65 春色の優しいクッキー 3/4

『"そして赤いリンゴが1つ…――"』

母のガーネットが口ずさんでいた歌を思い出していた。
昼間、ぼーっと窓を見つめる母が歌っていた歌。

『"木から落ちて割れた。2つに割れた。2つに割れて1つになった。1つは1つを探して…――"』



「"1つに戻る。1つに戻ったリンゴ、黒と金。赤い薔薇が咲いていた"」

ヒワリが回想を終えると、みんながヒワリに向いて思わずドキッとし急に恥ずかしくなった。
「――…っ!ご、ごめんなさいっ…つい口ずさんじゃって…」


「今のは何の歌?」

フォーンが興味深げにヒワリに聞いた。


「え、えっと…お母さんが歌っていた歌で…詳しいことはわからないけど教えてくれて」
「へぇ、それは俺も初めて聞いたな」


その後みんなの話が飛び交ったがヒワリには話声が聞こえて来なかった。

「ごめんなさい…ちょっと先に部屋へ戻るね」
「ついてくよ」
フォーンが言い終わらないうちにヒワリはドアを開け廊下へと出ていく。


「俺が行く。顔色悪そうだし、明日決勝なんだろ」

「なんだかんだ言って、ヒワリさっきから様子おかしいもんね…」
「怪我したんでしょうか?」

エンゼルの問いにロワンは否定する。

「それはないな。あいつ、すぐに通過したし。そういや、リズに何か言われてたな。
気にするなとは言ったものの…」

「わかった。一様傷は診ておく」

ヒイラギはそう告げると、ヒワリを追って部屋から出た。



シワーズ内の部屋は全部番号がふられており、客室の並びは左端から番号がふられ
フロアはコの字型、中央には三階と一階までを結ぶ階段がある。
先ほどヒイラギがいた部屋は206号室、ヒワリがいる部屋は208号室で右側の一番隅の客室だった。

ヒイラギは208号室へノックする。


「ヒワリ、入ってもいいか?」

「ちょっと待って」
ドア越しからそう聞こえると、しばらくして鍵を開ける音が聞こえるとドアが開きヒワリが顔を出した。


「ヒイラギ…?」
「明日大会だろ?傷とか体調、診とくよ」

「大丈夫、平気だから」
「いいのか?あいつらまた心配するぞ」


ヒワリは少し考えた後、ヒイラギを部屋に招いた。
「とりあえず部屋に入って」

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#64 春色の優しいクッキー 2/4


「ったく、狩人相手に剣を向けるとはな」「ま、なかなか威勢だったが」

周りが少しざわつきながら、少しずつ部屋から出始める。
狩人で女性がいることはそう珍しいことではないが、上位に残るのはそう居なかった。
ヒワリやリズを含め、女性狩人は三人しかいない。そして、もう一人はユズだ。
最初の印象は、身だしなみもきっちりしていてクールさもあるが姉御肌のような人だ。

 
 「あの子、ずいぶん貴方に突っかかるわね。何かしたの?」
「んなわけないだろ。大丈夫か?あまり気にするな」

ユズがリズを見に一度部屋から出て行った。
ロワンはすでに棒を下ろし、ヒワリを心配していた。


「…うん、大丈夫。早くみんなのところに帰ろう」

ヒワリは気を取り直してロワンに微笑んだ。



【パーキン通り:シワーズ】
ヒイラギたちがシワーズへと先に戻り、その後ヒワリたちが戻った。
部屋へ着くとヒイラギがヒワリとロワンに図書館で起きた出来事を説明する。

「――…表紙に印か。で、その本はどうした?」

ロワンの問い掛けにヒイラギは本を二冊、取り出した。


「げっ!!…マジかよ?借りて来たのか?」


隣にいたエンゼルは首を振る。

「持ち出し不可の本を正確には偽物を置いて持ち出してきました」


エンゼルの言葉にヒワリは驚き慌てて背表紙を見ると、持ち出し不可のラベルが書かれていた。

「持ち出したって……図書館の中は魔法使えないのに?」


「いやいや、それがさぁ…なぜか使えるの。リードやサイレンも」

フォーンもそう言い、ヒイラギが続けてヒワリとロワンに説明する。

「そう、魔法が使えた。で、印と同じ表紙の本もあったが、結局わからないことが増えただけだ。
図書館にあったのはソレイユの武勇伝書だったが…ヒワリとロワンはヴァンパイアからオルゴンに
ついて聞いてないか?」

「そうだな…。ソレイユがオルゴンを倒したという昔話くらいか。
キュウソスでは口伝みたいなものだから、詳しい話は聞いてない」


口伝…?
ふと何かを思い出した。浮かんだのは母の記憶だ。

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#63 春色の優しいクッキー 1/4


『――…それでは、本日の予選通過者を発表します!ヒワリ、ロワン、リズ、トール、ムーベン、
ロムリ、ユズ、ナムサ、スカルの9人となります!通過者には明日の決勝戦へ参加できる資格が
貰えます!明日はトーナメント戦!誰に幸運の女神が微笑むのか!見事栄冠に輝いた人物には
前チャンピオンとの一戦を受ける資格が貰えます!次回決勝戦を乞うご期待下さい!』


そうアナウンスが鳴り響き、予選は一旦幕を下ろした。
控え室では予選落選者と決勝進出者に分けられそれぞれの部屋に入る。

「9人か…トーナメントにしちゃ、珍しい」


ロワンの言うとおり、今まで9人という指定はなかった。
このまま、2人対決があるのだとすると、1人余ってしまう。

「何か理由があるのかも。平等だから余りはないはず」


ヒワリがそう話していると、部屋のモニターに先ほどの司会者が現れ、
みんなの自然はモニターに釘付けになった。

『予選通過の皆様、おめでとうございます!明日決勝戦では3人1チームに分かれて
いただきます!こちらはランダムで決めさせていただきますので明日モニターでご確認ください。
では明日の決勝戦、ご健闘祈ります!』


モニターは消え、少し周りはざわついた。
チームで戦うのだろうか?それにしても見知らぬ者同士でチームを組むのは考えられなかった。


「チーム戦ってこと?」

「狩人はチームで組むこともあるからな。当たり前ではあるだろ?」
「でも…」


顔を曇らせるヒワリに遠目から見ていたリズはギュッと手を握り締め、
ヒワリに近づきながら話始めた。

「私なら受けるわ。それとも…やる気がしないの?」

周りにいた狩人たちもリズの声に気付き、彼女へ自然を移した。


「貴方にとったら高見の見物かもしれないけど、貴方は私を侮辱したいの?」
「そういうわけじゃ…!」

ヒワリが否定しようとした時、リズは腰にあった剣を抜き瞬間的にヒワリの首もとへ
剣を突きつけたが、一足遅れてロワンも身近にあった棒を取りリズへと向けた。


「止めろ、リズ。ヴェンはそう教えたか?」

ロワンの言葉に動じることなく、リズはヒワリへ囁いた。

「邪魔をするな」


決意の籠もった言葉を残して、リズは剣をさやへと収め、先に部屋から姿を消した。

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#62 武勇伝書 5/5



"…青し選ばれし者よ。そなたは誰ゆえに捧げる?
何を得ようとも、オルゴンはそなたを見捨てはしまい。
ソレイユこそそなたを見捨てた者、その印を付けた偽善者。我、そなたに印を解放しようぞ"


その一節を読み終えると、次のページを開いたが何も書いておらず白紙のページが続いていた。


「エンゼル…何て書いてあった?」
本の状態からヒイラギは、エンゼルの様子が気になった。

「"蓮の花を司る者。そなたは何を求める?ソレイユはそなたに何も与えなかったというのに。
偉大な力、これを授け好きに使うがよい"とあって白紙のページが続いています」
エンゼルにも本にあった内容を伝え、ヒイラギは思い悩んだ。


「…どういうことだ?」

「ソレイユの印はオルゴンと関係してるようだな」
ユラは腕を組んでエンゼルとヒイラギの持つ本の表紙を見ていた。タイトルのない本。
しかし、表紙にある模様だけは違っていた。

「エンゼル、印の模様は?」

「え?どうしてですか?」
「表紙をみてみろ」


言われるまま、エンゼルは本の表紙を見る。
そして或ることに気づき声を上げた。
「印と同じです!僕のは蓮の花なんです。あれ?花びらが少し開いてる」

ロワンと同じであることも話すと、フォーンは自分の印もヒイラギを同じことを嬉しく思い
ヒイラギの印をみて喜んだ。


「ヒイラギのは私と一緒だね。青いなんて知らなかった。羽根の模様なんだね?」

同じ印がそろう。これには何かあるとヒイラギは思い、他にヒワリやユラの本もないのかと
自分の持っている本を見てはユラやフォーン、エンゼルに聞く。
「他の本の内容は?本はあと何冊ある?」


まだ探そうとするヒイラギにユラは止めに入った。

「ヒイラギ、恐らくこれ以上さがしても、印の手掛かりは掴めない。
本が全て語ってるわけではないんだ」

「けど…」
そういわれ納得のいかないヒイラギはユラに反対しようとしたが、再びユラに
止められる。

「ヒイラギ、ここにあるのはソレイユを称えた伝記に過ぎない。
ソレイユの印がどうして現れるのか、知っているとすれば吸血鬼だろ?」


ヒイラギはユラの言葉で気付いた。
そう言えば、伝記にはオルゴンについて書かれてないのだ。

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#61 武勇伝書 4/5



『――……コルシェ・センター・フィールド、第一次予選をお送りしています。ルールはフィールド
内に潜む魔物を先に五体倒した挑戦者が先に進めます!現在予選通過者はヒワリとロワン、初出場の
リズ、トール、ムーベン。
あっ、ここで初出場のロムリが通過になりました。
第二次予選に通過できるのはあと三名だけとなります!』


昔、1000年戦争があって人間のソレイユが吸血鬼のオルゴンを倒して、これまでに続いていた戦争を
終わらし平和を取り戻したという――。それ以降、吸血鬼との戦争はなくなった――。
そんな伝説のおとぎ話は、小さいときから聞かされて育ってきたものだ。

今の暮らしは「ソレイユの賜物」だと、大人たちは決まってそういうのだ。
だから、この国で「1000年戦争」や「ソレイユ」を知らない者はいない。

しかし、このおとぎ話が実話かどうかも本当は怪しいものだ。



「どう?見つかった?」

フォーンが顔をあげてみんなに聞く。やたらと、本の羽ばたく音しか聞こえないのはサイレントの魔法が
かかっているからだろう。

そのせいでフォーンの声はよく聞こえた。



「1000年戦争の伝説なら…まだ全部読めてませんけど。ソレイユの印は書いてなくて、
ソレイユのことしかないです」

エンゼルは本の挿し絵をフォーンに見せながらそう言った。
挿し絵は右側に若い男性が立ち剣は黒い翼のある男性の胸を貫いていた。


「この絵、右がソレイユだったっけ。人間と吸血鬼の戦いの…」

「ソレイユが人間でオルゴンが吸血鬼です。…あれ?この人…腕に模様があります。
刺青でしょうか?」
エンゼルの問いかけにフォーンはエンゼルが指差す翼の生えた男性の腕をよく見た。
確かに刺青のような模様が描かれているが…ソレイユの印かどうかは怪しかった。


「説明には何て?」

「それがソレイユが吸血鬼を倒したことしか書いてないんです。
"こうして、ソレイユの不意打ちに吸血鬼たちは隅へ隅へと追いやられていった。
ソレイユはアキアミヤ兵士を率い、そして先導しながら彼らの本拠地にたどり着いた"
この後もずっと、いかにソレイユが吸血鬼を倒していったのかということしかありません」

「もしかして武勇伝書?なんだ…期待して損しちゃった」


フォーンとエンゼルの会話を聴きながらヒイラギは手の中にある本を読んでいた。
これもリードを使わなければ読めなかったが、この本もエンゼルと同じく武勇伝書のようだ。

「エンゼル、これも武勇伝書みたいだがこの本と内容が同じか替えてくれないか?
途中でもかまわない」
「大丈夫です。どうぞ」


そう言ってエンゼルの読みかけた本を受け取った瞬間ヒイラギの左腰辺りが青く光り、
エンゼルの左胸も紫色に光った。
訳がわからないうちに、光はヒイラギとエンゼルと同じ光を本も放ちすぐに淡い色の光となって
消えていく。


「今のなんですか…?」

「わからない…」

慌てて本の内容を確認した。
変わらなければ、エンゼルが言うに武勇伝書のはずだ。ヒイラギは最初のページを開けた。



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